「中興名物」は、名物だろうか?
--- 「中興名物」とは、小堀遠州が取りあげた道具で、 それに、遠州を敬愛した松平不昧が「中興名物」と名付けた、 というものである --- それが名物なのか?そうでもないか? は、意見が分かれるところだろう。 遠州の好みに共感する人は、あるいは不昧の好みをよしとするひとは、中興名物を名物だと評価するだろうし。 趣味の合わない人にとっては、中興名物は、名物というほどのものではない、となるかも。 --- ここで、ちょっと茶の湯ヒストリーをみてみると・・・ 室町時代末期から安土桃山時代に隆盛をみた茶の湯という遊び 徳川時代になって、数寄の御成など、礼式としての茶の湯が成立すると、 諸大名は(好きでも嫌いでも)茶の湯を嗜む必要が生じた でも、増大する茶の湯の機会・茶道具に対する需要(ニーズ)、すなわち、伝世の名物茶道具は圧倒的に少ない そこに“新たなる名物道具”なる、ニーズ(需要)および供給(サプライ)が生まれた というのが僕の見立て 具体的には、 3代将軍家光の茶の湯師範の肩書を持った小堀遠州が、 自身の目に適う品物を選び出し、よいものだ、というお墨付きを与え、 諸大名の茶の湯ニーズに応えた、ということだろう 諸大名からすると、将軍家の茶の湯師範(である小堀遠州)が認めた品ならば、蔵品に加え、接待に用いる格好がついたのだろう 諸大名と小堀遠州の協力・コンセンサスのもとに“新たなる名物道具”が数多生み出されていった、時代の産物、とも考えられる --- ここで、考えてみれば、 本当によい道具は、それ以前に、すでに名物の扱いを受けているはずで、 それがいわゆる 「大名物」 (・・・主に室町時代に足利将軍家が所持していた道具(東山御物)と、利休時代までに、すでに最高位に評価されていた道具。) 「名物」 (・・・主に利休時代に著名になった道具をいう。織田信長や豊臣秀吉が千利休や津田宗及らに選ばせたり、名物狩りと称して収集したコレクション) なのだ --- 遠州は、それらのセレクションに漏れた、残りものに、名物のレッテルを張った、とも言えるだろう あるいは、 時代が下って、茶の湯の好みも変わり、 その時代の茶の湯を主導した遠州が、自身の美意識をもって選んだ、とも言えるだろうけれど それらの新・名物は、その後ずいぶん経って、江戸後期に、松平不昧によって、「中興名物」と名付けられた (実は、「大名物」・「名物」も、「宝物」と並んで、不昧による、分類・呼称だとか) 松平不昧は、個人的に、遠州の好みを良しとしていたのだから、そりゃ「中興名物」はよいものなのだろう だから、“中興の名物”と名付けた訳だ ---
さらに時代が下って 近代(明治・大正・昭和)になると、 いわゆる「近代の数寄者」という人たちが現れて 彼らの財力によるいわゆる「道具茶」というのが出てくる 彼らは京都の千家家元の権威を嫌ったのか いわゆる千家名物をそれほど(千家組織茶道全盛の戦後の茶道界のそれほど)重んじていない(人が多い) 一方で、 逆に、松平不昧の人気が高かったのが面白い 例えば、高橋箒庵 例えば、小林一三 茶道具コレクションが社交にものを言った、というところが、彼らを結び付ける共通項かも? 松平不昧による「雲州蔵帳」と そして高橋箒庵による「大正名器鑑」によって いわゆる「中興名物」は大いに名を上げた さらにさらに時代が下って、現代にいたるまで 遠州好み・不昧好みの茶道具をよしとする、というひとの多くは 少なからず彼ら、いわゆる「近代の数寄者」たちの茶道具観や物言いに 知らず知らず影響を受けているようだ --- もうひとつ、 自ら石州流の茶を学び、石州風の茶杓を多く削った不昧が 石州好みの茶道具に、それほど執心しているようにはみえない というのも不思議で興味深いところ 同じく、 近代の数寄者で 片桐石州の茶道具、そして彼の茶の湯を顕彰しようという人があまり見られないのも これまた、不昧びいきのなせる業か --- さてさて いずれにしても、 今度、根津美術館で、「遠州・不昧の美意識」という展覧がある。 楽しみに、観に行こう。 僕は、僕の眼で、 遠州さんの眼と、 不昧さんの眼と、 なにより、
by so-kuu
| 2013-02-08 23:37
| 茶道具
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