赤楽茶碗 銘 無一物 長次郎作 黒楽茶碗 銘 大黒 と並んで、 いわゆる宗易形を代表する逸品とされる 兵庫の頴川美術館から、はるばる東京の根津美術館に来ていたので、 是非とも拝見を、と観に行った で、結局、会期中に、3回観に行った 1回目は、平日の午前中 ほぼ誰もいない展示室で、思う存分、無一物と向きあうことが出来た ・・・静かだ・・・ それが、静かで、それでいて強烈な印象だった 時間がたっぷりあったので、 よーくみて、メモやスケッチなどもした 2回目は、無一物が好きだ、という人を連れて 週末の午後でも、思いの外空いていた 3回目は、会期末近くに、茶の湯社中の先輩方と さて 無一物を、よーくみてみると… 頃(ころ、大きさ)は、 大きくもない、小さくもない 長次郎は小さい、と言われるけれど 大き過ぎることも、小さ過ぎることもない 形(なり)は、 いわゆる「宗易形」 口縁はしずかな「一文字」 わざとらしい「五岳」が苦手な僕にはうれしい 轆轤を使わない「手づくね」なので、やや高低差はあるものの、ごく自然だ 口辺がやや内に抱え込み、 口の肉はややぽってりとしている 半筒の器形はすんなりとして、 腰から高台にすぅっとすぼまっている 高台は、 大きくもなく、小さくもなく 高くもなく、低くもなく、 器形を引き締めている 具合(ぐあい、土や釉の様子・雰囲気・使い勝手など)は、 畳に置いた茶碗を手に取る際に、指が高台にかかる、 というのが、宗易形樂茶碗の基本設計、とか たしかに 使いやすい道具を創ろうとした、と考えられる また、 内側の腰から見込へのカーブは、 外側のカーブより、高い位置から、急角度で落ち込んでいる 言葉にするのはちょっと難しいけれど 外側は、高さの4分の1位のところから、30度弱くらいの角度のなだらかな勾配 内側は、高さの3分の1位のところから、40度前後の急勾配 外側は持ちやすい=高台に指をかけやすく、腰も手のひらに収まりやすい 内側は、茶が練りやすい=茶と湯が茶碗真ん中の底に向かって集まり、練りやすい また、内外のカーブの差によって、腰下の肉が厚めになっていることも大きなポイントだろう 少し重めにすることで、手にとって安定感があり、 肉の厚みが適度な保温・熱伝導効果を生み、 湯を入れた茶碗を持った時に、 手に茶の温かさが心地よく伝わるんじゃないかな 土は、 聚樂第の赤土 釉は透明釉が薄くかかるのみ 一部は剥落して、かせた土味を晒している 腰下には、透明釉が何本もの白い線となっている 図録で見た時には、この白い線がうるさいな、と感じていたけれど、 実物では、それほど目立たない 肌合いは、テラコッタみたい、とも言える けれども、実に味わい深いのが不思議 外側に一面、黒い焦げがある 世間では、そこをこの茶碗の“正面”とすることが多いようだ。 ほとんどの図録では、そのように紹介されている。 それはそれで結構。 けれども、 僕ならば、無一物で茶の湯をするなら、どの面を正面にするだろうか? 僕なら、焦げのある面のほぼ真反対の面を正面にして使いたいな。 世間では、「正面」と言えば、何かした景色のあるところ、目立つところを探して正面とする、というのが一般的なようだけれど。 それが教条主義になっているのなら、つまらない。 「焦げ」の景色がもっとも「無一物」らしいだろうか? いや、僕はそうは思わない。 景色なんてものもない、 なんの変哲もない、しずかな姿 それこそ、いかにも「無一物」なんじゃないかな。 もっと言えば、後付けの銘に囚われる必要もない、と思う。 ただ黙って、 心を空にして、 裸の眼で、 この茶碗と向き合ってみたら 僕にとっては、 無一物は、“静かな茶碗”だ。 であるならば、一番静かな面を正面にして使いたいのだ。 その道具の、一番その道具らしいところを、亭主は亭主の眼で見出すべきだと思う。 僕と無一物のコンビで茶の湯をするならば、そういう静かな茶の湯をしたいと思う。 もうひとつ別の理由があって。 「一文字」だけど高低差がある無一物の口 一番高いのが焦げの辺り、一番低いのが、その反対側あたり 口まわりに高低差の茶碗の場合、 出来れば、高い方を奥に、低い方を手前にして出したい、 また、 出来れば左右どちらかに傾いて見えるようなのは避けたい、 というのが、僕の個人的な好み (いつも原則通りに出来るとは限らないけれど) ところで、 その焦げの反対の面 腰から道に立ちあがってすぐにあたりに、 ほぼ半周近くに渡ってヒビがまわっている 赤楽茶碗は脆くて、だから伝世品が少ない、とも聞く 無一物も、いつ割れてもおかしくないんだろうな 3回目に観に行った際は、閉館間際で、 学芸員さんがまわっていらして、少しお話しした 曰く、 「でも、湯通ししてあげたいくらいなんですけどね」 「そうしたら、もっと肌合いがキレイになるんでしょうけど、ちょっと気の毒ですね」 「自分のところの赤楽茶碗は、時折湯に通すこともあるんですけれど」(*おお、根津さん、いいな) 「借りものですから、勝手は出来ませんので」 たしかに カッセカセのカッサカサ でも、湯通しして、 盥から引き上げようとしたら、 例のヒビのあたりから、ホロホロホロッと崩れそう ああ 桃山の長次郎焼! いずれにしても、 詳細な観察や、 ああだこうだ、はどうでもいい 手に取って 茶を練って 茶を飲んでみたい 僕はこれまで赤楽茶碗にはほとんど興味がなかったのだけれど 手に取って 茶を練って 茶を飲んでみたくなる 赤楽茶碗 無一物 は なんとも 静かで なんとも 惹きつけられる 不思議な茶碗だ 以上、 備忘録として、書きつける p.s. この無一物 根津さんの第2展示室の真ん中に 単品ケースに入って ポツンと置いてあった もちろん、 それだけの扱いを受けるべき大スターだから ただ、 第1・第2示室と、壁伝いにぐるっとに回って展示を見たお客さんが、 真ん中の展示ケースに気付かず、そのまま出て行ってしまうのを、 何度も目撃した 実際、僕の先輩も、見落として、展示室を出ていた みなさん、無一物を観ずに、何を観にきたのかな? 実に可笑しいけれど、 赤楽茶碗「無一物」は、その位、静かな茶碗だ、ということかも知れません f(^-^;)
by so-kuu
| 2012-08-01 19:22
| 茶道具
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